今回は,-集合体とその意味についてもう少し考えます。
まず,ある標本空間に対して,
上の
-集合体は一意ではないことに注意して下さい。
例えば,
のすべての部分集合
とすると,,
,
はすべて
上の
-集合体となります。
今まで-集合体という何か小難しそうなものを考えてきましたが,これは結局何なのでしょうか?
以下で,確率論の応用における一つの考え方を大まかに説明します。
まず,上で見たように同じ標本空間上で定義される-集合体は一意ではないことに注意しましょう。
では,上の例での,
,
の違いは何なのでしょうか?
一つの答えは,これらは「標本空間をどれだけ細かく区別出来るか」の違いです。
例えば,は最も小さい
-集合体ですが(最も小さいという意味は,任意の
-集合体
について
が成立するという意味です。),これは実質的には何も区別できない
-集合体です。
は,事象
が発生するかどうかだけを区別出来る
-集合体です。また,
は最も大きい
-集合体ですが(最も大きいという意味は,任意の
-集合体
について
が成立するという意味です。),これは標本一つ一つまで区別出来ます。
したがって,-集合体は「情報」に関連していると解釈することが出来ます。「情報」を豊富に持っているということは,
「物事をより細かく分類できる」=「標本空間をより細かく区別出来る」
ということになります。
この観点からは,よりも
が,
よりも
が情報を豊富に持っている
-集合体であると言えます。
このことを,数理ファイナンスへの応用を考慮した言葉でもう少しだけ説明しておきます。
もし投資家がに相当する情報を持っているならば,その投資家にとっては,すべての事象に関して確率的な曖昧さは全くなくなることになります。
また,事象を「日経平均が時刻
に
である」という事象とするならば,もし投資家が
に相当する情報を持っているならば,その投資家にとっては「日経平均が時刻
に
である」かどうかは,確率的な曖昧さはなく既知であることになります。
このような観点からは,確率は持っている情報を最大限利用しても残る曖昧さの大きさを表していると考えることもできます。
応用上は,「情報」は「観測」によって得られることが多いため,-集合体は「観測」にも密接に関連したものであるとも言えます。