今回は,PASTA (Poisson Arrival See Time Averages)を数学的に表現し,定理の形で述べることにします[1,2]。
を,ある状態空間上の値を取る確率過程とします。
この確率過程のことを「システム」と呼ぶことにします。
をの状態空間の任意の集まりとします。
さらに,率>0のポアソン過程を考えます。このポアソン過程とシステムの間には,相互作用があるものとします。
その相互作用は,たとえば,待ち行列システムへの適用においては,をシステム内客数を表す確率過程,を客のシステムへの到着を表すポアソン過程と考えて,客の各到着時点でが1だけ増加するというような相互作用です。
システムがにある時間の割合とシステムがにあるのを見る到着の割合を考えます。この目的のためにで以下のものを定義します。
のサンプルパスは,確率1で左連続で右極限を持つとします。
この左連続性は,上記の待ち行列システムの例で言えば,到着がシステム内客数に影響を及ぼすのは(すなわちシステム内客数が+1されるのは),その到着直後であると考えることに相当します。
上記の定義で,はシステムがの間ににある時間割合を示し,はの間に発生する到着でシステムがにあることを見る到着の割合を示しています。
到着は何らかの形でシステムに影響を及ぼすことを想定しているので,と,したがって,とは依存した確率過程になります。しかし,どのような形での相互作用や影響を許すわけではありません。ここでは,システムが予見(anticipation)を持たない,すなわち,の将来の増分との履歴が独立であることを仮定します。この仮定はLAA (Lack of Anticipation Assumption)と呼ばれ,きっちり書くと以下のようになります。
仮定 Lack of Anticipation Assumption (LAA).
各において,は,と独立である。
このLAAのもとで,以下の定理が成立します。
定理 PASTA.
LAAのもとで,のとき, w.p.1 ならば,かつそのときに限り, w.p.1である。
以下に仮定と定理に関するコメントを述べます。
1. は,システムがエルゴード的であるような場合には定数になりますが,そうである必要はありません。例えば,システムが吸収状態をいくつかもつ連続時間マルコフ連鎖であるとし,システムの初期状態は過渡状態であるとします。ここでがある吸収状態であれば,は確率変数になり,の吸収状態に吸収されれば,そうでなければとなります。
2. Wolffの本[1]においては,LAAに上記の仮定に加えて,各において,がと独立であるという,に関する独立増分性が仮定されています。
しかしながら,この仮定は,がポアソン過程のとき独立増分性を持つので,本来不要です。そのため,このブログにおけるLAAは[3]に記述のあるLAAと同様のものをLAAとして記述してあります。このブログに記述してあるLAAはPASTAが成立するための十分条件になります。
次回から,数回に分けて定理 PASTAを証明します。
[参考文献]
[1] R.W.Wolff, Stochastic modeling and the theory of queues, Prentice-Hall, 1989.
[2] R.W.Wolff, “Poisson Arrivals See Time Averages,” Operations Research, vol.33,
pp.223-231, 1982.
[3] B.Melamed and D.D.Yao, “The ASTA property,” in Frontiers in queueing: models and problems, (J.Dshalalow, Ed), CRC press, 1995.