確率論の基礎(3)

前の記事「確率論の基礎(1)」,「確率論の基礎(2)」において,確率測度は標本空間の部分集合の集まり上で定義されている部分集合の「大きさ」を測るものであると言いました。

さらに,標本空間の部分集合の集まりはどのようなものでも良いわけでもなく制約があり,その制約は主に部分集合の「大きさ」を矛盾なく定義するためのものであることを述べました。

では,どのような部分集合の集まりなら部分集合の「大きさ」を矛盾なく定義できるのでしょうか?

部分集合の集まりの各要素で「大きさ」を矛盾なく定義できるためには,以下の性質を持っていることが必要と思われます。

考える部分集合の集まりは,補集合演算と可算回の和,積演算について閉じている必要がある。

すなわち,ある部分集合の大きさが定義されるのであれば,その補集合の大きさも定義されないと不都合だし,ある部分集合A, Bの大きさが定義されるのであれば,ABの和集合の大きさも定義されないと不都合だし,ABの積集合の大きさも定義されないと不都合だということです。さらに,それらの演算の結果できた集合に,さらに演算を可算回繰り返して出来た集合も大きさが定義されないと不都合であるということです。


上で述べたような性質を持つ部分集合族のクラスは, \sigma-集合体(\sigma-field, \sigma-加法族)と呼ばれ,以下のように定義されます。

定義: 標本空間\Omegaの部分集合の集まり{\cal F}が以下の条件を満たすならば,それは\Omega上の\sigma-集合体(\sigma-field on \Omega)であると言われる。

  1.  \Omega \in {\cal F}
  2.  A \in {\cal F} \Rightarrow A^{c} \in {\cal F}
  3.  A_{i} \in {\cal F} \; (i=1,2,\ldots) \; \Rightarrow \cup_{i=1}^{\infty} A_{i} \in {\cal F}

ここにA^{c}Aの補集合を表す。

ド・モルガンの法則から集合の積は集合の和と補集合で表すことが出来るので,上の定義で可算回の積演算についても{\cal F}は閉じていることになります。

 

確率は,\sigma-集合体{\cal F}のすべての要素に対して割当てられます。
すなわち,{\cal F}の任意の要素,すなわち,任意の事象Aの「大きさ」を測ることが可能で,
その「大きさ」のことを事象Aの確率と呼びます。

このようにして定義された(\Omega, {\cal F})可測空間(measurable space)と呼ばれます。

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