確率論の基礎(2)

前回の記事「確率論の基礎(1)」で,確率測度は,標本の部分集合から[0,1]への写像であって,標本から[0,1]への写像ではないことに注意して下さいということを言いました。
なぜ,標本から[0,1]への写像としないのでしょうか?
それは,以下の技術的な理由によります。

例えば,区間[0,1]からランダムに数を1つ選ぶとします。
このとき,どの数も同様に選ばれるので,確率はすべて同じにしたいです。
しかし,[0,1]には無限個(正確には,可算でもない)の数があるので,どんなに小さな正の確率を与えても,確率の和を1とすることができないことになります。
一方,その確率を0とすると,どこにも正の確率がないことになってしまいます。

この困難を解決するために,確率論では,確率を標本ではなく,標本の集合に対して定義します。

このことは,長さ,面積,体積などの大きさを測るときの基準に「点」に大きさを与えるのではなく,点の集合である直線,正方形,立方体に大きさを与え,それを基準に任意の図形の長さ,面積,体積を決めているのと同じことです。

次回は,\sigma-集合体と事象について解説します。

確率論の基礎(1)

確率論では,ランダム試行の任意の結果を,標本(sample)と呼びます。
また,すべての可能な結果の集合を標本空間(sample space)と呼びます。

確率論では,標本空間は単に集合でありさえすればよく,標本は標本空間の要素でありさえすればよいです。
なので,標本空間は[0,1)でもよいし,すべての実数の集合でもよいし,フーリエ変換可能なすべての関数の集合でもよいし,実現するorした可能性のある「世界」のすべての集合でもよいし,アルファベットで構成されるすべての文字列の集合(この集合には,アルファベットで書かれた現在世の中に存在する文学作品,これから世の中に発表される文学作品も,どんなものでもすべて標本として含みます)でもよく,集合でありさえすれば何でもよいです。

このブログでは,標本,標本空間は,それぞれ\omega\Omegaで表記することが多いです。

後で定義しますが,確率測度は,標本空間の「部分集合の集まり」から[0,1]への写像です。
ただし,必ずしも標本空間のすべての部分集合の集まりではありません。また,どのような
標本空間の部分集合の集まりでも良いわけでもなく,制約があります。
確率測度は,部分集合の「大きさ」を測るもので,その「大きさ」が0以上1以下の実数値を取るものであると考えるとよいです。
上で書いた標本空間の部分集合の集まりに関する制約は,主に部分集合の「大きさ」を矛盾なく定義するためのものです。

実は,皆さんがよく知っている長さ,面積,体積等も部分集合の「大きさ」を測ったものであり,
確率論で展開される理論はそれをもっと一般化したものです。
面積や体積が「積分」で表されるように,ここでの部分集合の大きさも「積分」で表されます。
そのため「積分」も一度きっちり定義することが必要になるので,後ほど積分に関する定義もします。

応用上は,部分集合の「大きさ」(=確率)を,その部分集合の「起こりやすさ」に対応させてモデル化を行った「確率モデル」がよく使われます。
ここで,確率測度は,標本の部分集合から[0,1]への写像であって,標本から[0,1]への写像ではないことに注意して下さい。
なぜ,標本から[0,1]への写像としないのでしょうか?

続きは,次回に^^